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サービスを「商品」だと捉えられない人々~通信料金に対するテコ入れについて思うこと~

近頃巷を騒がしている「総務省の携帯電話通信料金に対するコテ入れ」について色々と思うことがあったので書き残しておく。

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※注意: 何らオチのないボヤキです

てか毎年年度末が近づくと、総務省さんがちょこちょこ仕事始めるよね。ほんと。定例行事だよね。

事の発端

突然の御達し

9月11日、安倍総理が「携帯電話料金の家系負担が大きすぎる」と言う指示を出した。
伏線の有無は知らないが、世論的には「突然」という受け取られ方をしている。zasshi.news.yahoo.co.jp
thepage.jp

筆者のニュースを見た時の率直な感想は「どうせ与太話で適当なこと言ってるんだろ?」程度だったが、予想は外れた。
テレビのニュースでは大々的に報道され、社会ではそれなりの反響があったようだ。
どれくらい反響があったかというと、スマホに替えて久しい大叔母が突如として「私の携帯代高いんじゃない?安く出来ない?」と私に相談してくるレベルだ。

とりあえず反響があったことは間違いない。


そうこうしている間に総務省で「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」などという謎の組織が結成されて、会合が開かれ議論が始まった。



「携帯料金が高い」から「公平性と透明性」へ議題がすり替わる

「携帯代高いよね?」という総理の発言は確かに消費者の一般心理を代弁しているのだろう。
「大して使っていない」を自称する消費者にとって、月々5000円~10000円、まるで税金のように通信キャリアに支払っている現状は不満がたまるのだろう。
なので安くなることは良い事なのだろう。

しかしながら、タスクフォースとやらの議論は、初めから「公平性と透明性」を議題として掲げた。
現時点で「公平性と透明性」が損なわれているのかは別として、「公平性と透明性」を高めると料金が安くなるのだろうか?疑問である。




割安プランが出るらしい

そして先日、タスクフォースは次のような発信を行った。

携帯電話の料金を引き下げる方策を検討する総務省有識者会議は、来月取りまとめる予定の報告で、大手通信各社に対して通信の利用量が少ない人向けに新たに割安な料金プランの提供を求める方向で、調整を進めることになりました。
・・・
KDDIの藤田元理事は、16日の有識者会議のあと記者団に対し「通信の利用が少ない人向けに対応が必要だという指摘はそのとおりだ」と述べ、新たなプランを検討する考えを示しました。
圧倒的なシェアを占め、通信料金の横並びが指摘されている大手3社が、利用者の負担軽減につながる料金体系を打ち出せるか注目されます。

www3.nhk.or.jp





今の携帯料金は高いのか

「純粋な通信料金としての妥当性」に関する議論は専門家の方々にお任せすることとして、今回は扱わない。

しかしながら筆者の感覚的には、「確かに黎明期と違って基盤インフラは整っているだろうけど、日本は山が多いし、5Gの整備だってしないといけないし、それなりに妥当なのではないだろうか」という感じだ。

日本は人口の1割が東京に集中しているためインターネット上の意見はどうしても東京中心になりがちだが、皆地図をよく見て欲しい。日本はそのほとんどが山だ。
筆者は田舎をドライブすることが趣味だが、驚くほど山奥に行ったとしても大抵の場所でちゃんと携帯が繋がる。*1最近では3Gのみのエリアもあまり見かけなくなった。

そんな山奥で思うことがある。
「どう考えても、この基地局を日々利用しているユーザーが支払っている金額よりも、ランニングコストのほうが高いのだろうなぁ」
ってことだ。

まぁ何が言いたいかというと、短絡的に海外の価格と比較するのはやめてほしいものだ。
国土面積もそれなりだし、人口もそれなりだし、険しい場所が沢山ある国なのにもかかわらず、世界でも最高水準の移動体通信環境が整備されている事を是非忘れないで頂きたい。





「不透明性」有りきの議論

さて、ここからが筆者が一番主張したいことだ。

そもそも首相が突然このようなことを言い出したのは何故だろう?
――たぶんそれは多数の一般市民が「携帯代が高い」と思っているからだろう。


では、タスクフォースが「公平性」を争点に初めから持ってきたのは何故だろう
――たぶんこれも多数の一般市民が「携帯代は不公平だ」と思っているからだろう。


きっと民意を反映しているのだと筆者は考えている。
しかしながら一般市民は必ずしも聡明ではない


一般市民にはどうも「インフラ会社はズルをしている」と考えいている人が一定層いらっしゃるようだ。
古くから電電公社嫌いはいらっしゃったようだし、昨今の電力会社に対する様々な批判等を見ていてもそんな印象を持てる。
まぁ実際の所、筆者が生まれた時には既に国営のインフラ屋は存在してなかった(はず)だし、国営時代に何があったかは正直知らないので、上記のような感情を持っている人がいる事自体は別に批判しない。


しかしながらこのような感情を持った人々は、うがった目でインフラ屋さん(携帯キャリア)のことを見ているのではないだろうか?そんな風に考えている。





実際、格安で回線を維持している人は居る

さて、「キャリアがズルをしている」と考えている人々の思考に拍車を掛けていることがある。
昨今のキャッシュバック云々問題だ。

このブログの他記事を読んで頂ければ分かるように、筆者はその恩恵を受けている立場の人間なので、全てが胡散臭く聞こえてしまうかもしれないがあえてこの話題についても触れておく。

実際の所、我々(筆者)が恩恵を受けていることは確かだ。
ここ3年近く、メイン回線の通信費は2000円を超えたことが無いし、昔も今もほぼ0円でパケット通信を行える回線を持ち合わせている。
我々の様な存在を見て一般市民は「不公平だ!」と怒っているのだろうと容易に想像はつく。

しかしながら、別にこのような事が今に始まったことではない。
5年前にはすでに通信料がユニバーサルサービス料のみなパケット定額回線を作ることが出来たような気がするし、玄人達からガラケー時代のキャッシュバック案件は更にえげつなかったと伝え聞いている。*2
筆者的にも、プラスXi割が存在していた時のほうがかなり簡単に格安回線が作れたし、MNP優遇キャンペーンで2000円ほど月々サポートが増額されていた時代は、苦労しなくても5000円近く通信料金が割り引かれる事もあった。

では、どうしてこんなにも近頃問題視されるようになったのだろう?
筆者は原因の一つにインターネットの発達があると考えている。情報発信が容易になったことにより携帯ころがしを行っている人々が増えたことは間違いない。またSNSの普及でそういった人々に一般市民の目が行く事が増えたのだろう。
――母集団が増え、かつ露出が多くなったことが批判の原因につながっているのだろう。





「サービス」は「商品」であり、現キャリアは土管屋ではない

一般市民からこのような声が聞こえてくる
「あんなに得をしている奴らがいるから、俺達の携帯代が下がらないんだ!」


こんな風に受け取られる大きな原因として、通信料として支払っている金額の一部に端末の料金等が含まれている事があげられるだろう。
タスクフォースが主張している「不透明」はこれを指していることだろう。


だがしかし、ここで忘れてはならない事がある。通信料の中には端末代金やインフラ料金以外にサービス料金も含まれている。
「サービス料金」と言われてもピンと来ない読者も居るだろう。

思い出して欲しい。ドコモショップ等のキャリアショップに行ったことがきっとあることだろう。携帯を買う以外でも「ちょっと料金が高いなぁ」などという事から相談に行ったことなどは無いだろうか?
「1時間近く掛けて相談に乗ってもらい、結果としてプランを変更して帰った…」そんな経験も有るかもしれない。
――この時に「手数料」を支払っただろうか?答えは否なはずだ。

私事だが、筆者はその昔キャリアショップや量販店等で働いていたことがあり、その時に様々な光景を目にした。
(その時の話が気になる人は以下の記事を読んで欲しい)yanoshi.hatenablog.jp
ちなみに↑の記事では筆者は今とは別の意見を持っていて、割と携帯料金の不透明性について物申している感がある。あの頃は若かったし思慮が足りなかった。
あと、あの頃はMVNOが普及してなかったので、一般ユーザーが格安回線を手に入れる方法が少なかった。今は違うよね。

そうやって働いていて、毎回のように目撃する光景があった。それが「困ってあたふたしている中高年」である。
キャリアショップは彼らにとっての駆け込み寺だ。
「操作方法がわからない」
「充電ができない」
「画面が真っ暗。壊れたのでは?」
そんな相談を持って、毎回のように様々な人が来店している。
そのほとんどが詳しい人からすると他愛のないトラブルではあるのだが、「解決して、原因を説明して、納得して、帰ってもらう」という一連のフローを行うと、それなりに時間が掛かる。
しかしながら相談者から手数料を取ることはない。それがキャリアショップなのだ。


ここまで来ると、よく理解していただけることだろう。
そう、キャリアショップの運営費等も通信料に入っているのだ。
またもっと言うとキャリアショップはそのほとんどが代理店契約をした「キャリア以外の会社が運営する」存在であり、彼らはしっかり彼らで利益を上げないと潰れてしまう。


日本に住んでいると忘れがちだが、誰かを一定時間拘束して受けられるサービスには料金が発生するのだ。
サービスは商品であることを忘れてはいけない。
ユーザーは商品を得るためには対価を支払わなければならない。


「高い通信費は機種代が添加されているからだ」というほど、通信料は短絡的存在ではないのだ。
キャリアは今も昔も純粋な土管屋ではなく、様々なサービス…すなわち商品を提供しているのだ。





「賢い買い物」をしている人は批判されるべきなのか

サービスが商品であることを念頭に置くと、様々な批判に矛盾が見えてくる。

一般市民の中には「キャリアショップと家電量販店で値段が違いすぎる。けしからん」という批判を行っている人がいると聞く。
ここまで読んでくださった読者の方々は、この批判がおかしいことがよくわかると思う。
家電量販店で受けられるサービスはあまり多くない。だから安いのだ。

もうすこし分かりやすい例を提示しよう。

じゃがいもを買うとき…
Aさんは、とあるスーパーに行った。このスーパーには試食コーナーや野菜の美味しい食べ方の実演紹介等があり、Aさんはとても気に入っている。この日も新しいメニューを学び北海道産じゃがいもを500円で購入した。
Bさんは、とあるスーパーに行った。このスーパーは効率化を売りにしており、売り場も雑然としており、レジもほとんどがセルフレジだ。店員もほとんど居ない。しかしながら安いことが魅力だ。この日も北海道産じゃがいもを250円で購入した。

このじゃがいもは同じ農家で生産されたもので、味は同じである。

この時に、AさんはBさんを批判するだろうか?しないだろう。Bさんは買い物上手なのかもしれないが、Aさんだって得をしているはずだ。

スマートフォンを安く買っている奴、けしからん」と言った批判は、AさんがBさんを批判しているようなものなのだ。
併売店や家電量販店は、お世辞にもサービス満載とは言えない。「携帯を買ってハイおしまい」と言った感じだ。
そうやって人件費を削減しているのだから、当然浮いた金額で割引を行うことだろう。これが批判されることなのだろうか?





しかしながら経営を支えているのは結局ユーザー

さて、言いたいことをつらつらと書いたわけだが…
結局どうなれば良いのだろう。


結局のところ、お金を支払っているのはユーザーであり、ユーザーから見放されたら経営は成り行かなくなる。
なので値段の妥当性というのはなるべくアピールしていく必要があるのだろうなぁとなんとなくだが筆者は思っている。


しかし、本当の意味で透明性を求めに行く展開となればどうなることだろうか?
キャリアショップに行ってちょっと相談するだけで、2000円ほど請求される…はたまたキャリアショップにコンビニがくっついてしまいオマケとしてユーザーサポートを行う存在になってしまうかもしれない。
そんなギクシャクした展開は誰も幸せにならないことだろう。
良い落とし所に落ちてくれる事を祈るばかりだ。


てか、サービス欲しければMMO、サービスいらなければMVNOで良いんじゃない?って思ったりはする。ほげほげ。

*1:ソフトバンクを除く。やはりドコモは最強だ。

*2:そんなことが会ったから、公式0円端末は無くなったのだろう。